男たちの大和

映画化されるとかで、文庫本が完全版という体裁で平積みされている。思わず懐かしくて手に取った辺見じゅんの名作ドキュメンタリーを再読。

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辺見 じゅん

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緻密な取材に基づいた、張りつめたような文章。上から下まで、というよりは、ある意味個の兵の視点から描かれたドキュメンタリーの傑作である。作者の「大和」への評価を直接的な言葉で一行たりとも書いていないストイシズムに貫かれている。ドキュメンタリーとはかくあるべし。
だから、本当にコレを映画化するのは反対なのだ。これだけ緻密なものを2時間ばかりの映像にするのは至難の業であり、乗組員3000人の死をヒロイズムやセンチメンタリズムを排除して描くことができるわけがないから。
辺見さんの文章からはヒロイズムなどどこにもない。海軍内部の不必要なばかりの新兵しごきや、硬直したシステムや、とてつもない先行きへの楽観主義への冷酷なばかりの描写。それは「もう少し、もう少し「まし」な負け方はなかったんかい。」という、「何が浮沈空母だ、何が神州不滅だ、何が特攻だ。」という、無為に終わったフネに対するとてつもない苦い怒りなのだ。
主観をほとんどあらわにせず、ただ淡々とひとりひとりの乗組員の運命を描写して、なおもその怒りと無念とを感じさせるその文章力描写力の確かさ。
まあ、映画化によってより多くの人がこの原作に手を伸ばしてくれること自体は、いいことなんだけどね。