ローマ人の物語 17〜20

4101181705ローマ人の物語 (20)
塩野 七生

新潮社 2005-08
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ネロがギリシヤで竪琴を弾き、詩を吟じた、というエピソードを読むにつけ、頭の中で落語の「寝床」が浮かんじゃいますな。彼自身は自らをひとりの芸術家として任じていたようだけど、「第一人者」が芸術家じゃあ、彼以外のすべての人が困るわけで。しかも、彼の芸をいかように評価されても、「皇帝」という前提からは逃げようがないから。それに気付くことができないところが、今風に言えば、アイタタタなお人だ。後に彼と同様に伝説の悪帝とんるヘリオガバルスは男娼のまねごとをして男性に抱かれたそうなのだが、そっちと比べると、どちらかというと微苦笑が浮かぶ素朴なお話。
長屋の大家なら、ご馳走までして無理矢理義太夫を聞かせるのも喜劇ですむのに、世界帝国の皇帝となると悲劇でしかない。もっとも今際の際に、「今、ひとりの芸術家が死ぬ…」などと、ナルシストぶりが徹底しているところなどさらに憐憫すら感じる。ひとりの皇帝になるには愚かすぎた男の、もしくは皇帝でさえなかったらまわりの苦笑を呼ぶだけであった凡人の、悲しくて愚かな喜劇、といえるかもしれない。