そよそよ族伝説

そよそよ族伝説―童話 (3)そよそよ族伝説―童話 (3)
別役 実

ブッキング 2005-07
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言葉でもって「言葉のない世界」を描こうとする不条理。論理でもって非論理の世界を描こうとする逆説。そんなパラドキシカルな世界が「黒い郵便船」であり、その続編とも言える「そよそよ族の伝説」だ。
ある意味理屈落ちを貫き通すのが別役実の真骨頂。いや、それはもしかしたら屁理屈に近いものかもしれないのだが…。
作者ご本人が認めるとおり、「そよそよ族」は明らかに「指輪物語」の影響を受けている。ツモリ老人をガンダルフと置き換えれば、そのまま、これは「旅の仲間」だ。だが、「指輪物語」があくまでも「正義」と「悪」の戦う戦記物であるのに対して、「そよそよ族」世界には「正しい回答」はどこにもない。自然そのままのあまんじゃくも、誰の味方でもない。
世界を統べるのは、言葉(あるいは呪い)もしくは言葉のない世界。約束(論理)は無意識に成就されてはじめてその効力を発揮する、という作品世界の根幹のルール。
だから、うつぼ船によって流された母子を救うのが世界のためなのか、そうでないのか。大氏王朝も、高天原も、夜見のかげ使いも、葛城も、そのパワーバランスのためだけに戦い、互いに傷つけ合う。その狭間で、風に流される木の葉のようによるべない存在である、個々の人々の運命は定めがたい。
まだファンタジーという言葉が一般的でなかった時代に、この一級のハイファンタジーは既に書かれていた。そして「そよそよ族」は未完である。さらにこの後が描かれるはずだったのに…。