西行花伝
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大和言葉の美しさを存分にいれた、芳しいまでに高貴な文体。辻邦生の歴史物ならではの、清浄な小説といっていい。
ただし、西行は後々までその影響を宮中には与えてはいるが、あくまでも政治からの隠遁者である。だから、残念ながら道ならぬ恋の苦しみから出家したところで、物語の主人公であるというよりも、世相を見るオブザーバーとしての立場をとることになる。
西行の目に映る、権勢と愛に生きた西行の思い人の待賢門院、現世の権力を一身に集め始めている平清盛、凄惨なる一生を送ることになる崇徳上皇。この三人の話が小説をひっぱっているといっていい。
特に保元の乱に破れた末に讃岐に流され。その辺境の地で、狂気の果てに血文字とともに沈む悲劇の上皇の描写は鬼気迫る。崇徳院は、「日本国の大魔縁とならん」と呪いとともに死すも、その後、悪霊としての猛威を振るうことはなかった。「花伝」では西行の鎮魂、ということになってはいるが…。祟りなす悪霊というものは本人の意志とは無関係ということの一端を表している。