ベニスに死す

ヴィスコンティ特集のひとつ。ヴィスコンティといえば、この作品を言う人も多い、かの有名な「ベニスに死す」。トーマス・マンの原作よりも映画のほうが有名になってしまったのは、やはり奇跡のような美少年ヴィヨルン・アンドレセンのヴィジュアルに尽きるのではないかと。彼がこれ一本で引退し、大衆の前から消え去ったのもむべなるかな…。

ベニスに死すベニスに死す
ダーク・ボガード トーマス・マン ルキノ・ビスコンティ

ワーナー・ホーム・ビデオ 2006-11-03
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天使か悪魔か、この世のものとは思えない美少年。それに魅惑された死期間近な作曲家の過去とも現在とも交錯するイメージ。同性愛というよりは、音楽という「芸術」に魅了され、そこに届くことのない才能のなさを自覚したときの芸術家の話というのが近いのかもしれない。
美少年タジオは単に彼の目指してやまぬ「芸術」の神の具現に過ぎない。(そこに肉欲が混じらないとは必ずしも言えないんだけど、だからといってタジオを自分のものにしたいという欲望が彼にあったとは思えないんだよね。)
神に愛されしものへの羨望と嫉妬と愛着の物語。(全くアプローチが違うけれど底流にあるテーマは「アマデウス」と同じかも)
折しも疫病に襲われていることが繰り返し描写されるヴェネチアヴィスコンティの時代からヴェネチアという場所が観光にすがるしか生きていけない「厚化粧の娼婦のような街」であることが描かれるのはなかなか興味深い。(まあ、中世から疫病と戦ってきた場所なんだけど。)
フィクションではなく、温暖化の影響を受けてヴェネチアは水底に沈む、と言われている。この美しい宝石の街が常に「滅び」の象徴なのは印象深い。(もちろん、現実的には、イタリア政府には沈まないように方策をたててほしいし、観光産業の目玉なので、座視するはずもないのだが)

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