博多座文楽公演「仮名手本忠臣蔵」

http://www.hakataza.co.jp/kouen/index_h1812.html
3年続いているらしい、博多座文楽公演のチケットを初めて入手。クリスマス気分の街で見てきました。
忠臣蔵はとても長い物語なので、今回あったのは第三段から第七段まで。しかも、私が行ったのは夜の部のみ。「おかる勘平」と呼ばれる悲恋モノの部分。
時代劇などでは、省略される部分なので、簡単にストーリーを記すと

第五段〜第六段
塩谷判官(赤穂藩浅野内匠頭)の刃傷沙汰の大変な時期に、恋人おかるとデートしていたという失態をおかした勘平は、侍を捨ておかるの実家に身をよせた。
勘平のために討ち入り資金を用立てれば、彼が侍に戻ることができると考えた舅の与一兵衛は娘おかるを身売りし、百両もの金をつくるのだが、その半金を持ち帰る途中、山崎街道にて山賊に強盗される。一方勘平は猪と間違えて山賊を撃ち殺してしまうが、その懐にあった50両を天の助けとばかり持ち帰って帰参のための金としてしまう。
しかし、その死体を舅のものと間違えた勘平は、罪悪感にとらえられたまま。またその帰参のための50両を差し戻され、さらに舅殺しを姑や同僚から責められた勘平は絶望して腹を切る。
だが、死体の傷痕が鉄砲疵でないことに一同は気付き、知らず勘平が舅の敵討ちをしていたことがわかるが、後の祭り。短慮から、あたら若い命を散らす堪平。姑は連れ合いに先立たれ、娘とは生き別れ、頼りの娘婿にも無惨に死なれて嘆きの声を上げる。

まず、これは主君のために敵討ちをすることが個人の幸せよりもずっと重要だった時代の物語であると覚悟しないといけない。自分の娘を本人の了解のなく売っちゃう親も親で、それを知らずに過ちとはいえ猪と間違えて山賊を誤射したあげく、知らんぷりして懐のものをいただいちゃう勘平も勘平。おまけに、舅殺しを責められて、なんの説明もせずに腹きっちゃうんだから…。でも結果的に、敵討ちなんだからオールオッケー(?)となるのが忠臣蔵
五段目の「山崎街道出会いの段」のところは、敵討ちのために「お金が必要」ということと、実は侍に未練たっぷりの勘平を描写する段なので、結構単調。かなり眠くなってくる。
しかし、「2ツ玉の段」つまり舅が大雨の中山賊に襲われるシーンは一転荒事となり、舞台が緊張することになる。人形同士とはいえ、倒れ伏した舅父与市兵衛を山賊の定九郎が執拗に責め、刀で傷をえぐるシーンまであるんだから…。江戸のグロテスクといったところ。
六段目は、おかるの実家が舞台。おかるの身売り奉公に無理矢理出されるシーンにはじまり、勘平の腹切りまで。ストーリー的には破綻しているのに、義太夫の名調子が、死に行く勘平の無念と、無実の婿をなじってしまった老婆の後悔と嘆きに、客席を巻き込む。目の前におじいさんの義太夫がいるのが見えていて、分かっているのに、老婆の悲痛の嘆きに思わずもらい泣きしちゃうんだから…伝統芸能とは怖ろしい世界である。

第7段
そのころおかるは愛しい夫が自刃したのも知らず遊女となって祇園一力茶屋に勤めている。そこは、塩谷判官の家老、由良助が遊んでいるフリをしつつ討ち入りの計画を進めている場所でもあった。仇討ちを疑う敵も味方も欺かねばならない。そこへ、足軽ながら討ち入りに参加させてくれとおかるの兄平右衛門が訪ねてくるも、由良助は取り合わない。一方執拗に由良助を疑う裏切り者の九太夫(実は与市兵衛を殺した山賊の父親)は床下に潜み由良助の動向を探る。
由良助の密書を偶然見てしまうおかるだが、由良助は彼女を身請けし、自由にしてやると約束する。おかるから身請けの話、密書を読んだことをきいた平右衛門は、突然おかるに斬りかかる。そして父与市兵衛の死、勘平の切腹を報せる。由良助は密書を読んだおかるを殺すつもりだから、いっそ兄の手にかかり、その功で兄を敵討ちの連判に加えさせてくれとおかるを説得する。
その様子を見ていた由良助は、二人を止め、床下で話を伺っていた裏切り者の九太夫を討たせて、めでたしめでたし。

舞台は一転して華やかな祇園一力茶屋。義太夫も一人語りから、複数人のやりとりとなる。いろんな場所から声が聞こえるように調整してのサラウンド効果まで狙っているんだから恐れ入る。
地口やダジャレの江戸文化のくすぐりで観客を笑わせる。エログロナンセンスの世界もたっぷり入っている。(相変わらずストーリーは破綻しているんだけど。)
とにかく遊女となったおかるの動きは凄まじい。他の人では「ああ、人形を操っているなあ」ということがわかるんだが、桐竹勘十郎にかかると、そのまま生命を持っているものにしか見えない。操っている人形師の存在にまったく目がいかない。それだけでなく、人間の女では絶対に出すことのできない艶っぽさ、あだっぽさ、シナ。いや、参りました。誰か、モーションキャプチャーでこの人形の動きは保存してください。
また、人間国宝竹本住太夫の名調子。由良助の最後の長台詞のかっこいいコト。昼行灯よ、遊びに狂った虚けよ、とバカにされることをひたすら耐え、最後に爆発する由良助の本心の吐露だからなぁ。ストーリーのご都合主義とか破綻なんぞを吹っ飛ばすだけの迫力である。

いやもう、人形浄瑠璃をちゃんと見たのは初めてなんだけど、魅了されました。
人間ではなく人形が演じて、語りは義太夫で、と、屈折に屈折を重ねているだけに…。ある意味アニメーションで横に声優さんが喋っているところを映してあるようなモンだよなぁ。それでも舞台の物語に引き込む「技」に参りました。

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