怪奇大作戦セカンドファイル 昭和幻燈小路

公式より http://www.nhk.or.jp/kaiki/
東京下町で原因不明の電波障害が発生、住民157名が行方不明になる。事件を追うSRIの牧たちは、過去と現在が渾然一体となった不思議な空間に迷い込む。やがてSRIは過去のビジョンを視覚化する謎の波長をとらえ、発信源である古い写真館へ向かう・・・。

ハイビジョンで見損ねた「昭和幻燈小路」再放送でやっと見た。
小松左京の「首都消失」というよりは「物体O」のようにある日完全に隔離された街。というか、住人自体が異世界に行ってしまっているだけで、街自体は残っているので、正確には「物体O」とは設定が違うけれど。二つに重なり合う現実の街と異世界に隔離された街。
そして、異世界に隔離された街はだんだんに昭和30〜40年代に様相を変えていく。醜いビル群は姿を消し、昭和の頃の日本家屋が、とっくに廃止されてしまったはずの路面電車が、姿を現していく。夕暮れの薄明かりに彩られた甘く美しい悲しいノスタルジー。老人の夢。
泉鏡花鈴木清順実相寺昭雄押井守…。そういった系譜に心惹かれる人のための、幻想譚
見慣れた街が変容する姿の特撮がなかなかに素晴らしく。悲しみに満ちたドラマを実相寺スタイルが支える。不思議なアングルからの映像。素敵に後ろ向きな物語。謎のすべてを握る赤い少女。とはいえ、ぎりぎりのところで抑えて、視聴者おいてけぼり状態の暴走までにはいっていないので、美しいファンタジーとしてのゆったりと楽しむことができる。
主演の西島秀俊はなによりも「悲哀」をはらんだひとなので、冷徹な科学の徒である牧史郎を演じるには優しすぎ、センチメンタルすぎるが、この話にはそれが非常に似合っているように思える。

とはいえ、この悲しい話は本当に美しい夢の世界の欺瞞に過ぎない。「本物の」の昭和30年代は決して美しい時代でもなんでもなく、「現代」と同様に、いやそれ以上に猥雑で、下世話で、混沌としている。「現代」が間違った方向に進んだ悪い時代だと思いこむのは自由だけど、それを見ている側が鵜呑みにしてはいけない。過去はいつも特別に美化されるのだから。
意図しているかどうかわからないのが、皮肉なことにそのすぐ後に始まる「怪奇大作戦」傑作選のほうには、昭和30年代40年代の「リアル」が映し出される。