ウェールズの山

地図に「山」として載るには、あと6メートル足りない。測量士たちを足止めして、村人たちは頂上へと土を運ぶ。ふるさとの誇りである「山」と、心意気を示すために。

ウェールズの山ウェールズの山
ヒュー・グラント クリストファー・マンガー タラ・フィッツジェラルド

ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント 2006-04-19
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爆発もなければ、人殺しも、アクションも、歴史的謎もない。一応、恋愛らしき部分もないわけじゃないけれど、どうみても添え物。小さな村の、頑固な村人たちと異分子としてのよそモノとのとてもさりげないコメディ。でも、これが人を引き込むんだよね。
だから、もちろん歴史的背景を知らなくても、ハートウォーミングなコメディとして楽しむことはできる。だが「歴史」を知れば、彼ら村人たちが何故地図の上の「山」であることに、かくも拘るのか。ロンドンから来た人々を排他的に「イングランド人」と呼ぶのか、そういったことが胸に迫り、「おもしろうてやがて哀しき」物語となる。
映画の中でも指摘されているようにウェールズはローマ化されなかった最前線。ヴァイキングにも襲われ、旧教、新教の宗教対立の舞台ともなり…。だからこそ、ウェールズというアイデンティティは現在でも非常に強いとか。その長くて悲惨な歴史を時代を超えて見てきた「山」はその独立性のシンボルでもあるわけだ。
そして、その中で、大英帝国のする戦争に否応もなく巻き込まれる村の人々。はっきりとした描写はないものの塹壕戦でシェルショックになった青年や、戦死者のために祈る牧師の言葉などなど、第一次世界大戦の悲惨な背景を物語るわけで。その鬱屈と絶望がせめてもの抵抗として、イングランドに故郷の山河を認めさせたいって心にも繋がるのだろう。
一応物語の語り手は、ヒュー・グラントの演ずるところの測量員なんだけれど、実質、村人を煽って「山」造りをさせる「好色」のモーガン(黒ヤギのモーガンってのが好色と訳されていたのが面白い。)が主人公。彼を、コルム・ミーニー@StarTrekのオブライエン技師が好演していた。
撮影の時に山を測量した結果のラストのオチはよかったね。

(追記)
映画を見ているときは「いい話」で終わるけれど、よくよく考えたらこれってハートウォーミングな横溝正史だね。村の因習。降り続く雨と村人たちの陰謀によって逃げ場を失う都会からきた二人組。未必の故意による殺人(じゃないけれど、牧師死んじゃうしさ)…。た〜た〜り〜じゃ〜。