ぬしさまへ

最弱わかだんな、一太郎が主人公の江戸ミステリ「しゃばけ」シリーズの第二弾
第一弾の「しゃばけ」の感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/ariahisaeda/20070503

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畠中 恵

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しゃばけ」は長編だったけれど、この「ぬしさまへ」以降は短編集となる。もちろん、主人公はいつも寝込んでいる一太郎。まわりを固める異形たち。まあ、一太郎自身も「しゃばけ」で明かされた謎では「普通」の人間じゃあないんだけど…。とはいえ、ホントに身体の弱い人間。ちょっと世間知らずな天然ぶりはあるものの、優しく誠実かつ常識的な主人公。巧みな人間観察と、頭脳の冴えくらいは持っているけれど…。いや、もう、一太郎大事で常識をさっさと踏み越える周囲のほうが、ずっと大変(笑)。彼の周りに集まっている妖怪たちは仕方なくても、それと同調して一太郎大事の両親も含めて、いや、面白い。
というか、この「一太郎大事」の子煩悩によって捨てられた運命にある腹違いの兄、松の助の物語がなかなか秀逸。松の助も悪いヤツじゃないし、その松の助を素直に兄として慕う一太郎も、こんな濁りのない関係には、ホントはなりようがないんじゃないかと思うのだけど、そうなるのも一太郎の天性のひととしての「美しさ」のおかげか…。その透明さを「空のビードロ」として表現した一編なかなか泣かせます。