異聞 始皇帝謀殺

DVDは未発売の中国映画。字幕版のビデオだけはあった模様。シネフィルイマジカのおかげで、こういった作品も見ることができる。

異聞 始皇帝謀殺【字幕版】異聞 始皇帝謀殺【字幕版】
チャン・ウェン クー・ヨウ シュイ・チン

日本ヘラルド映画(PCH) 1998-12-18
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始皇帝暗殺」も暗い映画だったけれど、こちらはさらに暗い映画。同様に始皇帝の暗殺の話だけど、後の荊軻による暗殺失敗の話ではなく始皇帝即位前のこと。
主人公は、始皇帝に仕えた宮廷音楽家、高漸離。
幼児期に親交がある秦王政によって、秦宮廷に居場所を与えられた高だが、彼自身は政の残虐な侵略を憂い、最後に自殺としか思えない政の謀殺を行おうとする、というどこにも救いがない話。

いかにも芸術家然としていて、常に非現実論を唱え、あまつさえ罰による死を望んで始皇帝の娘と交わることまで行う高。かなりとんでもないヤツなんだけどねえ。
その高を赦し、周囲の非難からも守る始皇帝は、なんかすっごく度量が大きく見えるわけで。高に宮廷音楽家としての職を与え、その才を愛し、裏切られてなお愛情を注ぐように見える。
始皇帝の残虐が一種の政治的デモンストレーションであることを理解しない高…。いや、まあ確かに残虐非道であることは確かなんだけれど。中国の統一を考えた時に、その行動に一部の理はあるわけで…。
愛娘を政略結婚の道具として嫁がせるのは当然だし、その相手が将軍なので早々に戦死するところまで踏んでいるわけで。いずれ高に下賜することも考えていたように見える。奔放で、愛に生きる娘にも、そのことは伝わらず、悲劇的な最期となってしまう。
史記」においては専横なる独裁者として描かれる秦の始皇帝。彼を、人としての弱さ醜さをもった独裁者として描いた「始皇帝暗殺」、完璧なる天才であるが故に誰からも理解されぬものとして描いた「英雄-HERO」、清濁を併せのむ政治家としての側面を描いた「異聞、始皇帝謀殺」
それぞれに違う孤独の相を描くのを見比べるのは面白い。