闇の守り人

闇の守り人 (新潮文庫 う 18-3)闇の守り人 (新潮文庫 う 18-3)
上橋 菜穂子

新潮社 2007-06
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アニメ化された「精霊の守り人」の続編。「精霊の守り人」でチャグムを守った女用心棒バルサが、故国カンバル王国へ立ち戻り、再び国の存亡をかけた陰謀に巻き込まれる、というお話。苦難の少女時代、養い親ジムサの不幸、その原因を造った恨みの故国に歩をすすめ、それを一度精算しようとするバルサ。しかし、その陰謀は彼女が想像したよりも深く、新たな事件へと巻き込まれていく。
山がちで寒く、生産性が低く、地下の国にあるルイシャ<青光石(せいこうせき)>にたよらねば、飢えてしまうカンバルという国、歴史、価値体系。その風土と儀式。これには唸ってしまった。美しいイメージに流されず世界そのものを冷徹にみすえているのだ。
少しアンデスを思わせるような世界。氏族体系が非常に厳しく、王といえど氏族を無視できない政治体制。貧しくつらい人々の生活。
では、地の底から好きなだけ宝石をとって、豊かになりたい…。野心ある人間がその誘惑に抗しえないのは、当然すぎるほど当然。けれど、その野心はさらなる災厄しか招かない。
異世界の物語なのだから、その気候も風土も歴史もすべて一からつくらないといけない。その中で、納得のいく道徳の規範、論理の整合性を産み出さないといけない。そして、それでいながら、読んでいる我々にちゃんと感情移入させなければいけない。
まことファンタジー小説とは難しいものなのだ。
世に溢れる玉石混淆のファンタジー小説の中で、そういった「異世界」を構築することに成功しているものはどれだけあるだろうか?
守り人シリーズは、その難しいハードルをクリアし、かつ、心理の深みにまで踏み込んだ良質の作品だと思う。
「児童文学」という区分けは、そのリーダビリティにこそ生きてはいる。だが、その作品自体の重さは、凡百の大人向けの小説を凌駕している。
「子供のために」書かれたものには、当然いろいろな制約がかかる。その制約を超えて人の心にテーマ性を届けようとする努力は、作品をより良質なものへと磨く。
親友のために、親友の子を逃がすために、故国でのすべてを捨てたばかりか、親友たちを殺す修羅の道を選んだジムサが、何を考えていたのか。人間の心が多面であることを深くつきつける。
息づまる短槍同士の決闘を描き、カンバルの少年カッサの少年を描き、そしてバルサの「心の旅」の終わりを描く。
精霊の守り人」を読んでなくても、話し自体は通じるとは思うが、やはり最初から読むべきでしょう。
精霊の守り人」の感想はこちら<http://d.hatena.ne.jp/ariahisaeda/20070531