ローマ人の物語 17〜20

興国の祖とも言うべき、アウグストゥス亡き後を継いだ4人の皇帝たち。古代ローマの不道徳の華ともいうべき悪名たかき皇帝たちの一人一人を描く章である。

4101181675ローマ人の物語 (17)
塩野 七生

新潮社 2005-08
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悪名高いといっても、それぞれに、その事情となした事、その立場は違う。ある意味で有能すぎる官僚的皇帝であったティベリウス財政破綻者であるカリグラ。悪妻を制御することが苦手であったクラウディウス、そして最も悪名高きネロ。彼らを伝説と醜聞の中から引き出して、政治的にいかにあったか、ということに焦点をあてている。
渋澤龍彦的エロスと暴力と、そしてすべて不道徳の温床とされる古代ローマの、鮮やかな皇帝フィクションに親しんでいる身としては、それらのファンタジーを剥ぎ取った後の皇帝の姿というのはいささか悲しいものがあるが…。
それでも政治の現実を考えるに、皇帝という立場が常にデリケートな舵取りを要求される、というところはなかなかに現代的だ。そこらへんが絶対権力を持つ中国皇帝とはかなり違う。
塩野さんの繰り返すアウグストゥスが作り上げたデリケートなフィクション=帝政、それが、元老院との関係性とともに「大衆の支持」が不可欠な存在であったためであろう。そして、そこまで現代と似ていながら、選挙制がないがために、施政者の変更を暗殺という方法でしか取りえないところに、古代ローマのローマたるゆえんがありそうな。
中身は間違いなく面白い。面白いんだけど、時々塩野節が強すぎて、引いてしまうところがないわけではない。特に女性の描写がかなり極端であるような気がするんだけどなあ…。