どろろ Complete BOX

コンプリートBOXで、しかも、いささか読みづらいほどに活字が小さい、言い換えれば内容の詰まったライナーノートがついて、幻のカラーパイロット版までいれて、このお値段は価値がある。アニメの歴史を抑える意味でもこの一本は買い。

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手塚治虫

コロムビアミュージックエンタテインメント 2005-09-21
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アニメ版「どろろ」は、途中でテコ入れされ、題名の変更まで余儀なくされている。まあ、路線変更前の14話は、暗く重く陰惨で、商業作品としての路線変更は仕方のないところだろうな、と思わせる。だから、評価をするにしても、14話までと15話以降はある意味別作品として、考えたほうがいいかもしれない。
まず14話までは2話もしくは3話の連続作品としてつくられている。明らかに原作からし白土三平の一連の作品の影響を受けた話作りなんだが、さらに黒澤映画等の影響も色濃い。戦国を舞台に、実の親に魔物に売られた青年の復讐行と、戦争によって虐げられた子供との、化物との戦い…。社会の最底辺で、すべての人から疎まれるものとしての、不幸。
完全に子供おいてきぼりというか、当時の子供であった私の記憶に詳細はない。ただただ怖ろしい魔物が「顔がほしい」と叫んでいたのしか、覚えてないんだよなあ。
モノクロの画面だからこそ、次々に凄惨な場面が繋がりが返って迫力を産む。ライナーノートをひもとけば、現在も一線級で活躍されている方々のきら星のような名前が。
特に「ばんもんの巻」は最高潮。板門店ベルリンの壁がイメージソースとして、戦争に虐げられる無力な人々。そこにシェイクスピア悲劇を盛り込んで、重厚な作品に仕上がっている。弟を殺し新たな憎悪を招く百鬼丸。そして化け物を倒したとしても、それは平和な世界を作りだすことには微塵も貢献していないという無力感の伴うラスト。今どきの言い方をすれば、こんな「鬱展開」よくも放映しましたね、という感じ。「Blood+」あたりが残虐描写として物議をおこしているようだが、そんなものが裸足で逃げ出す凄惨絵巻だ。
さて、作品の完成度自体はあきらかに落ちていく後半なのだが、見るべき物がないかといえば、そうではない。
子供むけに、との配慮で、前半の地獄のような悲劇は陰を潜めるのだが、民話をイメージソースにとったために逆に泥臭いフォークロア的な「残酷」が頭を持ち上げるのだ。前半の物語は、実のところ、「上から見た」民衆の悲劇であり「頭で考えられた」革命でしかない。(白土的革命思想といった感じが色濃い。)ところが、民衆の側からの土の匂いのする恐怖は、皮肉なことに「迎合しようとした」後半にこそ産まれてしまう。不気味の度合いを増した化け物のデザインといい、相手が妖怪、死霊、化け物の類とはいえ、あまりに容赦のない百鬼丸の戦いぶりといい、闇の深さは逆に増していくのだ。村を守ろうとして、結局畜生道魔道に堕ちる「四化入道」の話など、前半以上の凄惨な話とも言える。
実にひとつのアニメーション作品の中で、こういう対比が産まれてしまうとは、興味深い話だ。
そして、最終回では、前半のシェークスピア悲劇がぶり返し、実の父親を最大の敵として、物語の結末を迎える。不幸を背負った貴種である百鬼丸は、すべての身体を取り戻すが、その時に彼の目的のすべては失われる。彼は一人いずこへともなく去り、一方「どろろ」は「地に根付くもの」として、フォークロアをさらに生きる。残念ながらアニメでの描写は駆け足なのだが、それでもここに、凄まじいアニメの帰着を見ることができる。
この闇の濃さは、平成の世に再現することは難しい。